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ばちあたり

ばちあたり

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1960(昭和35)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,391 字 · 44 页

青空文庫

啓三が姉の良人の助力で仲買人になったとき、郷里では敏夫の生活が荒れだした。姉や啓三は「ぐれ始めた」と云う。敏夫自身は本気だったかもしれない。私にはどっちとも区別できないが、大学を一年でやめると、闇物資の売買をやり、次に県庁のある市で食堂をひらき、また、小学校の準教員になるかと思うと、町へ帰って貸し自転車屋をはじめるというぐあいで、四年ばかりのあいだに五つか六つ職を変えた。しかもそこには一貫したものがなく、軽率とでたらめ、生来の飽きっぽさ、といったふうな感じしかみられなかった。

「雪がないね」眠っていると思った啓三が、窓外を覗きながら云った、「いつもならこの辺はもうまっ白なんだがな」

私は黙っていた。

「眠ってるの」

「いや」

「雪がなかったらまっすぐ家へゆきますか」

「そうだな」と私は答えた、「まず木内へ電話をかけてからにしよう」

啓三は腕時計を見た、「あと二時間とちょっとですよ」

「暢気な人たちね」姉が顔を掩っている雑誌の下から云った、「おかあさんが危篤だっていうんじゃないの、雪があろうとなかろうと、着いたらすぐゆくにきまってますよ」

「雪の夜道を三里ですか」