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ばちあたり
ばちあたり
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1960(昭和35)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,391 字 · 44 页
「そうだ、これはいまのうちに相談しておかなくちゃいけないと思うんだが」と云って彼は前跼みになり、両手を左右に開いた、「もしおふくろに万一のことがあった場合、敏夫をいったいどうします」
「もちろん東京よ」と姉が云った、「独りで置いたらなにを始めるかわかりゃしないもの、あの人にはこわい者が側にいなければだめよ」
「おふくろは甘かったぜ」
「母親というものは甘いようでもこわいもんなのよ」姉はちょっとまをおいて、「いろいろな意味でね」と云い、タバコに火をつけた、「敏夫はしようのない子だけれど、ひどい間違いをしずに済んだのは、おかあさんがずっと側にいたからだわ」
「するとこんどは独りになりたがるかもしれませんぜ」
「そんなこと云わせるもんですか」
「健さんの意見はどうです」
私は窓外を見たまま黙っていた。そして十秒ばかり経ってから云った。
「雪が積ってるよ」
午後八時過ぎ、その線の終点に着き、そこで乗換えて約一時間、鈍行の列車に揺られてから郷里の町の駅におりた。雪はかなり積っているが、夜空は晴れて、眼にしみるほど鮮明に星がきらめいていた。――駅の前にバスの営業所がある。