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ばちあたり
ばちあたり
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1960(昭和35)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,391 字 · 44 页
「こうらいや」と啓三が云った。
「およしなさい」と姉が云った、「敏夫、――そんなやけなようなことを云って、いったいこれからどうするつもりなの」
「だから、おふくろもそれを心配してたって云ったでしょう、ちょっと失礼」
敏夫は立ちあがって、母の遺骸のある六帖へゆき、自分の四帖半へいったが、すぐに素焼の小さな壺を持って戻って来た。四分の一リットルくらいはいりそうな壺で、口のところに細い繩が巻きつけてあった。
「おふくろ手製の梅酒です」敏夫は茶箪笥からグラスを出して来、壺の木栓を取って、その酒を注いだ、「世間で作るようなやつじゃない、純粋な梅酒、七年経ってるんですよ、失礼だけれどあんた方には差上げません、おふくろがぼくのために作ってくれたもんですからね」
薄い琥珀色の、とろっとした酒で、敏夫は仰向いてそれを喉へ流しこんだ。
「どこまで話したっけな、ああそうか」敏夫は二杯めを呷って云った、「これからどうするつもりか、っていうところでしたね、ええ、あんた方はよく聞いていないらしいが、ぼくは全巻の終りだって云ったでしょう」
「ふざけたことを云うのはよしなさい」と姉がタバコに火をつけながら敏夫を睨んだ、「さんざっぱらおかあさんにあまえたあげく、あたしたちにまで甘ったれるつもりなの、こんなときぐらい少しはまじめになるものよ」