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ばちあたり
ばちあたり
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1960(昭和35)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,391 字 · 44 页
「ねえ健さん」姉は啓三との話しを切上げて私に呼びかけた、「健さん」と繰り返して、私のほうへ顔を寄せながら、声をひそめた、「――おかあさんどうかしら、あたしこんどはだめだっていう気がするんだけれど、あんたの考えではどう思って」
私はちょっとまをおいて答えた、「わからないな、おふくろは芯が強いからね、――なにしろ」
「芯は強いよ」と啓三が云った、「あの呑んだくれで我儘いっぱいだったおやじが、おふくろの芯の強さにはシャッポをぬいでたからね、そう云えば敏公にも芯の強いところがあるぜ、そこがおふくろと性の合うところなんだろうな」
「気が合ってなんかいるもんですか、おかあさんはあの子のことばちあたりって云ってますよ」
私は姉の顔を見た、
「去年いったとき聞いたのよ」と姉が云った、「おかあさんの口からと、テープ・レコーダーと、二度も聞いたわ」
「それでどうしてあいつにばかりくっついてるんだろう」と啓三が云った、「おれんところはともかく、室町にしろ健さんのとこにしろ、それこそ御隠居さまさまでいられるんだからな、いくら生れ故郷だからって、あんな寒い田舎町で敏公なんぞと苦労している必要なんかありやしない、結局おふくろはあいつが可愛いんですよ」