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ひとごろし
ひとごろし
山本 周五郎
「別冊文藝春秋」1964(昭和39)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,607 字 · 45 页
「私は闇討ちをしようなんて、考えたこともありませんよ」
「その恰好で」と娘は六兵衛の着ているものを指さした、「女中に金を握らせて二階にいる客を見張らせるなんて、それが正しいお侍のなさることでしょうか」
「これには仔細があるんです」
娘は坐って、膝へきちんと両手を置いた、「うかがいましょう」と娘は云った、「あたしはおようといって十七歳ですが、両親に亡くなられたあと三年も、この宿の女あるじとしてやってきました、そのあいだにいろいろなことも経験し、男女のお客も見てきています、話すことがしんじつか、でたらめな拵えごとかどうかぐらい、見分け聞き分けるちからはもっているんですから」
妹のかねと同じだな、六兵衛はそう思い、額の汗を手の甲でぬぐった。すると妹の「兄さんが臆病者だから、自分はこのとしまで縁談ひとつなかったのだ」という思い詰めた言葉と、しんけんな顔つきが思いうかび、その回想に唆しかけられるかのように、六兵衛は大きく、あぐらをかいて坐り直した。
「よろしい」と彼は云った、「これから私の話すことが、あなたにとってどう判断されるかわからない、だが私はそんなことをぬきにして、正直に自分の立場を話す」