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ひとごろし

ひとごろし

山本 周五郎

「別冊文藝春秋」1964(昭和39)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,607 字 · 45 页

青空文庫

六兵衛は吃驚してとび起き、どうした、なにかあったのかときいた。さっきの女中がなにか知らせに来たもの、と直感したのであるが、そうではなくて、十七八とみえる美しい娘が、彼を見おろして立っているのであった。――娘はほっそりした小柄な躯で、おもながな顔に眼鼻だちのはっきりした、六兵衛にとって生れて初めて見るような美しい姿をしていた。けれども娘の表情は、怒ったときの妹のかねのそれとよく似てい、彼には美人だなという感想よりも、この娘は怒っているなという感じのほうが先にきた。

「まあ呆れた」娘は行燈の火を明るくし、六兵衛のようすを吟味するように見て云った、「――あなたはいつもそんな恰好で寝るんですか」

「そんなことはない」六兵衛は首を振った、「にんげん誰だって、いつもこんな恰好で寝るわけにはいかないでしょう、それとも、あなたはできますか」

「あたしは女中のさくらから事情を聞きました」娘は彼の言葉など聞きながして云った、「あなたはうちの二階にいるお客を、闇討ちにしようとしているそうですね」

六兵衛はちょっと考えてから反問した、「それはどういうことですか」

「きいているのはあたしのほうです」