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ひとごろし
ひとごろし
山本 周五郎
「別冊文藝春秋」1964(昭和39)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,607 字 · 45 页
藩公は激怒され、すぐに追手をかけろと命じた。これは加納の家族とは関係がない、昂軒はおれに刃を向けたのだ、上意討だ、と名目をはっきりきめられた。――昂軒は狩場からいちど帰宅したが、すぐに旅支度をして出ていった。そして出てゆくとき、彼は門弟の一人に向かって、これから北国街道をとって江戸へゆく、逃げも隠れもしないから追手をかけるならかけるがよい、と云い残した。
そこで誰を討手にやるか、という詮議になったが、相手が相手なのでみんな迷った。彼なら慥かだ、という者もみあたらないし、私がと名のって出る者もない。だからといって一人の相手に、人数を組んで向かうのは越前家の面目にかかわる、どうすればいいかと、はてしのない評議をしているところへ、双子六兵衛が名のって出た。人びとは嘲弄されでもしたように、そっぽを向いて相手にしなかった。六兵衛は怯えたような顔で、唇にも血のけがなく、躯は見えるほどふるえていた。よほどの決心で名のり出たのだろうが、名のり出たという事実だけで、もう恐怖にとりつかれているようすだった。
――よしたほうがいい、と一人が云った。返り討にでもなったら恥の上塗りだ。