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ひとでなし
ひとでなし
山本 周五郎
「講談倶楽部」1958(昭和33)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,484 字 · 38 页
「おめえは知らねえからよ」と痩せた男は軽く云った、「女は幾らでもいるが、しんから役に立つ女はあいつ一人だ、万が一、関所でいざをくうようなことがあっても、あいつならきっと役に立つし、大阪へ着いてからだって、急場を凌ぐもとでぐらいにはなるぜ」
大きいほうの男はまた黙った。
「あとを云えよ」と痩せた男が促した、「五年間きれいでいて、それからどうしたんだ」
「あさって嫁にゆくそうだ」
痩せた男は静かになり、それからゆっくりと振向いた、「あさって、どうするって」
「嫁にゆくんだ」と大きいほうの男が云った、「津ノ正にはかみさんがいたが、七年病んだあげく今年の二月に死んだ、そのあとへはいることになったというんだ」
痩せた男はじっとしていて、それから音もなく立ちあがった。彼は腕組みを、つぎに右手で顎を撫でながら、二三歩いったり来たりした。麻裏をはいているためでもあるが、足音もさせず、呼吸も聞えなかった。腕組みをした片手で顎を撫で、地面をみつめて、ときどき首を振りながら、やや暫くいったり来たりしていたが、やがて立停り、そして笑いだした。初めは喉の奥で、低く山鳩の鳴く