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ひとりすもう

ひとりすまう

織田 作之助

「海風 第三号」1938(昭和13)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,706 字 · 40 页

青空文庫

それがぼくにはたまらなく悲しく思われた。

その翌朝、宿の女中がぼくの部屋へ果物籠を持って来た。それはT港に帰えった明日子から贈られたものであることが、籠の中にはいっている白い角封の中の手紙でわかった。

その節はいろいろと御心配をお掛けしまして、御厚意のほど深く感謝して居ります。

あのようなこと成された時、一時はたいへんお恨み申しましたが、今はもうそのような気持も致しませず、何かなつかしい気持さえいたします。お笑い下さいますな。

もう再びお眼に掛かることもあるまいと思いますれば、淋しい気持がいたします。でも、お会いしない方がいいのではないかとも思っています。では、お身体を呉々もお大切に。余り御無理を成されぬ様に。

明日子

追伸

轡川はもう大阪へ帰えりましたでしょうか。自暴自棄にならないように、もし未だ居りましたら、よくおきかせ下さいませ。

その様な手紙だった。ぼくは眼の前がパッと明るくなった様な気がした。朝の光りに冴え返った空の色を見て、そこにぼくの心の色あいを見る想いがした。明日子の文面には、彼女がぼくを誘惑しようとした浮気な女でないことが、明瞭にあらわれているではないか。