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ひどいけむり

ひどい煙

久生 十蘭

「オール讀物」1955(昭和30)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,064 字 · 18 页

青空文庫

奥山は、起きあがって、前から頭に斬りつけ、あとは次第もなく、めちゃめちゃに突刺し、二人で外記を斬り殺したということであった。

九月の二十六日、稲富、井上とも、世禄お取上げ、半十郎と喜三郎は士籍から削り、鍛冶師の扱いになる旨、達しがあった。

夕方、半十郎は仏間の片闇になったところに端坐して、父と稲富が、ああまで執念深く争いつづけたのは、どういうわけがあったのだろうと、考え耽っているとき、庭にむいた塀越しに棒火矢が飛びこんできた。その辺いちめんに、火玉をこぼしながら、むやみに煙硝の煙をたちあげるので、邸のなかは煙にとじられて、もののかたちも見えないようになった。

そのとき、塀の外から、

「喜三郎、お見舞い」

と呼びかける、野太い声が聞えた。

「半十郎、貴様とは、互いに敵になったぞ。おれは、これから西へ行くが、どこかの果てでめぐりあったら、五百目玉の抱え大砲で勝負をつけることにする。忘れるな」

半十郎は、なにをと叫び、床脇から鉄砲をとって戸外へ走りだしたが、ちまたには夕闇ばかりで、喜三郎のすがたは、もうなかった。