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ひどいけむり

ひどい煙

久生 十蘭

「オール讀物」1955(昭和30)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,064 字 · 18 页

青空文庫

五

目下から目上に盃を差すのは礼儀ではない。外記は面白くなく思ったが、怒りを胸におさめ、その日は、なにごとも言わずに帰った。

翌日、鷹匠頭の小栗の邸で、重ねて和解の宴を張ることになり、長坂、奥山も寄って、にぎやかな酒宴になったが、宴果ててから、長坂は喜太夫をとめ、外記だけを先に帰そうとしたので、外記は、扱いの不束さに立腹し、いきなり脇差をひき抜き、長坂をおし伏せて、衿から咽喉もとへ刺し通した。

五

長坂は、

「心得た」

といって、抜きあわせたが、深手のために働けず、外記の額に薄手を負わしただけで、そこへ倒れた。喜太夫は、これを見るなり、

「長坂だけはやらぬぞ」

といって、脇差をぬいて外記に斬りかけたが、外記は肩を斬られながら、喜太夫を突き伏せた。

奥山は、つづきの小部屋で酔い倒れ、小栗は茶室で茶を点てていたが、座敷の物音を聞きつけて来て見れば、長坂と喜太夫がすでに絶命している。外記は奥山を斬ろうというので、つづきの小部屋へ行き、刀を振りあげて斬りかけようとしたひょうしに、刀を鴨居へ切りこんでしまった。外記が刀を抜きとろうとしているのを、小栗が後から外記の脇腹へ突通す。