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みごとなおんな

みごとな女

森本 薫

「劇作」1934(昭和9)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,668 字 · 34 页

青空文庫

あさ子 雷がなる迄よ。

真紀 此の頃は、雷が鳴ったって、なかなかあがりゃしない。

収 いろんなことが変りますね。あさ子さん、ピアノでも弾かないか。聴きたいんだって仰言ってたよ。

弘 ええ、是非一つ。

あさ子 駄目、あたし。

収 駄目だから聴きたいんだろう。巧いのなら他所で聴けるよ。

あさ子 自分がさきに弾けばいいでしょう。ホ短調が楽譜なしで弾けるんだから。

収 僕の後では尚更弾けなくなるよ。さあ愚図々々言ってないで。

真紀、笑い笑い拍手の形。

あさ子、真紀を打つ真似。

真紀、大袈裟に逃げる。

それでも、あさ子はやっぱりピアノの蓋をあける。

真紀 (収に)ピアノの稽古を止すんだって?

収 ――。(笑っている)

真紀 止さなくって、いいんだろう。折角、母さんに頼んであげたんじゃないの。

収 ええ、もう止さなくってもいいんです。だけど、男がピアノって、可笑しいじゃありませんか。

単調なソナティヌ。

三人ひっそり笑いながら聴いている。

めいめいがそれぞれの思いを追っていて、まるで聴いていないようででもある。

夕闇の色が濃い。

弘 (笑ったまま)奥さん、あなたは今日、(収を指さし)このひとに大変いけないことをなさいました、御存知ですか?