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めおとよろい

めおと鎧

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館 、1943(昭和18)年1月号

N1 · 挑战 · 新字新假名 · 12,130 字 · 24 页

青空文庫

三

三

二つ、三つ、なぐりつけ、そこへぐいぐい捻じ伏せたと思うと、幸長はとつぜん一封の書状と短刀を孫兵衛の手につかませ、「これを徳川殿までお届け申せ」と囁くようなこえで云った。「屋敷まわりは治部少輔の眼がある、いかなる方法でもよい、気付かれぬようにぬけだしてゆけ」声は低かったがその内容の重大さは雷のように孫兵衛の胸をうった。はっとさげる頭を、幸長はさらに一つ打ち「不心得者め、このたびはゆるす、以後はきっと申付けるぞ」そうどなりつけると、大股に御殿のほうへと去っていった。

孫兵衛は地面にうち伏したまま、すばやく封書と短刀をふところへねじこんだ。書状の裏にはかずしげ(三成)とはっきり書いてあった。密書である。家臣にも知れぬようにわざわざそのような仕方で孫兵衛に托さなければならぬほど、それは重大な密書にちがいない。したがって、屋敷まわりに治部少輔のきびしい見張りがあることも、事実だろう。――いまこの屋敷を出る者は、その眼をのがれることはできない。どうしたらよいか、孫兵衛はしずかに立ちあがり、衣服の土を払いながら遠侍のほうへもどった。そしてお広縁へあがろうとしたとき、菊岡与吉郎とばったりであった。