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もののかげ
ものの影
豊島 与志雄
「心」1952(昭和27)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,794 字 · 18 页
家庭も裕福な方で、彼は謂わば隠居の身の上だった。
事はそれで済んだ。葦の茂みのそばの燃やし火も直ちに消し止められていた。
然し、田中さんは拘禁されてるわけではなく、葦はまだ茂っており、いつどういうことが起るか分らなかった。不安な空気が漂っていた。それで、警官や有力者の肝入りで、葦の茂みのある土地の所有者と談合の上、葦はすっかり刈り取られることになった。
松の古木一本だけで、その下の方に、浅い泥沼が広がり、さっぱりした土地になった。
少年の怪死事件は、いろんな謎を秘めて、未解決のまま残された。
おれはまだ自由を欲する、と彦一は胸中で叫んだ。そして間もなく、遠くへ移転して行った。
――彦一については、まだ後日物語がある。田中さんについても、後日物語がある。然し、二人が別れ別れになってしまった以上、この物語も一応ここで終止符を打つべきであろう。