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もののかげ

ものの影

豊島 与志雄

「心」1952(昭和27)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,794 字 · 18 页

青空文庫

然るに、死体には致命傷と見られる頭蓋骨折があり、そばに血まみれの人頭大の石が落ちていた。なお、左※(「臣+頁」、第4水準2-92-25)下に打撲傷も見られた。明らかに他殺らしい。それにしても、格闘の形跡もなく、物取りの仕業とも思われなかった。

この少年は、一キロほど離れたところに中華ソバを営んでる伯父夫婦の、店の手伝いをしていた。少しく低脳、そして浪費癖があった。店の現金を持ち出しては、始終叱られていた。最近では、茨城県下の農家へ追いやられるとかの話があって、それを苦にしての自殺覚悟だったらしい。

だいたい右のような記事で、真相は明らかでなく、どの新聞のも大同小異である。

その記事の一つを、島野彦一はふと見つけた。そして各新聞を熱心に読みあさった。アパートにはいろんな新聞がはいっている。それらを彼は、監理人のおばさんの室へ行って借りて読んだ。ふだんは、自分のところへ来る一つの新聞さえろくに覗かない彼である。

おばさんは眉をひそめて言った。

「たいへん御熱心ね。」

「この近くに起った事件ですよ。」

「自殺でしょうか、それとも、他殺でしょうか。島野さんはどう思いますの。