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ろまんどうろう

ろまん灯籠

太宰 治

「婦人画報」1940(昭和15)年12月~1941(昭和16)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,222 字 · 74 页

青空文庫

先刻から、もっぱら小説の筋書ばかり考えているのである。その譬が、さとの小さい胸を、どんなに痛く刺したか、てんで気附かないでいるのである。勝手な子である。「さとは、どんな気がするだろうなあ。言ってごらん。小説の参考になるんだよ。実に、むずかしいところなんだ。」

「そんな、突拍子ない事を言ったって、」母は、ひそかにほっとして、「さとには、わかりませんよ、ねえ、さとや。猛(次男の名)は、ばかげた事ばかり言っています。」

「わたくしならば、」さとは、次男の役に立つ事なら、なんでも言おうと思った。母堂の当惑そうな眼くばせをも無視して、ここぞと、こぶしを固くして答えた。「わたくしならば、死にます。」

「なあんだ。」次男は、がっかりした様子である。「つまらない。死んじゃったんでは、つまらないんだよ。ラプンツェルが死んじゃったら、物語も、おしまいだよ。だめだねえ。ああ、むずかしい。どんな事にしたらいいかなあ。」しきりに小説の筋書ばかり考えている。さとの必死の答弁も、一向に、役に立たなかった様子である。

さとは大いにしょげて、こそこそとお膳を片附け、てれ隠しにわざと、おほほほと笑いながら、またお膳を捧げて部屋から逃げて出て、廊下を歩きながら、泣いてみたいと思ったが、べつに悲しくなかったので、こんどは心から笑ってしまった。