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アド・バルーン

アド・バルーン

織田 作之助

「新文学」1946(昭和21)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,390 字 · 53 页

青空文庫

夜の底はしだいに深くなって行った。私は力なく起ち上って、じっと川の底を覗いていると、おいと声を掛けられました。

振り向くと、バタ屋――つまり大阪でいう拾い屋らしい男でした。何をしているのだと訊いたその声は老けていましたが、年は私と同じ二十七八でしょうか、痩せてひょろひょろと背が高く、鼻の横には大きくホクロ。そのホクロを見ながら、私は泊るところがないからこうしているのだと答えました。まさか死のうと思っていたなどと言えない。男はじっと私の顔を見ていましたが、やがて随いてこいと言って歩きだしました。私は意志を失ったように随いて行きました。

公園を抜けて、北浜二丁目に出ると、男は東へ東へと歩いて行きます。やがて天満から馬場の方へそれて、日本橋の通りを阿倍野まで行き、それから阪和電車の線路伝いに美章園という駅の近くのガード下まで来ると、そこにトタンとむしろで囲ったまるでルンペン小屋のようなものがありました。男はその中へもぐりました。そこがその男の住居だったのです。男は、今宮へ行けば市営の無料宿泊所もあるが、しかし、人間そんな所の厄介になるようではもうしまいだと言いながら、その小屋に泊めてくれました。