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アド・バルーン

アド・バルーン

織田 作之助

「新文学」1946(昭和21)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,390 字 · 53 页

青空文庫

帰って秋山さん――例の男は秋山といいました――に相談すると、賛成してくれましたので、私は秋山さんと別れて、車の先引きになりました。

亀やんは毎朝北田辺から手ぶらで出てきて河堀口の米屋に預けてある空の荷車を受けとると、それを引っぱって近くの青物市場へ行き、仕入れた青物つまり野菜類をその車に載せて、石ヶ辻や生国魂方面へかけて行商します。私はその米屋の二階に三畳を間借りして、亀やんの顔が見えると、いっしょに出かけて、その車の先引きをすると、一日七十銭になりました。ところが、三月ばかりたつと、亀やんはぽっくり死んでしまったので、私はまた拾い屋になろうと思って、ガード下の秋山さんを訪れると、もう秋山さんはどこかへ行ってしまったのか、姿を消していました。井戸水を貰っていた百姓家の人に訊いても、秋山さんが出入りしていた屑屋に訊いても判らない。

空には軽気球がうかんでいて、百貨店の大売出しの広告文字がぶらさがっていた。とぼとぼ河堀口へ帰って行く道、紙芝居屋が、自転車の前に子供を集めているのを見ると、ふと立ち停って、ぼんやり聴いていたくらい、その日の私は途方に暮れていました。