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カンナとオンナ

カンナとオンナ

北大路 魯山人

「独歩」1953(昭和28)年

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 1,832 字 · 4 页

青空文庫

ひぐらしの鳴き声が涼しい。

わたしは、わたしのテーブルの前に坐って料理をし、客はわたしのテーブルの前に坐っていた。

わたしは、料理をいつも自分で作りつつ食べ、客にもすすめる。

客は詩人であった。

どんな詩をつくるのかわたしは知らぬ。その詩人も、見せたことはないし、わたしも、見せてくれといったことはない。詩人だか、死人だか、わたしは知らぬ。ともかくも、詩人であるということだ。

わたしはビールを飲む。ビールだけ飲む。風呂から上がって、まだ、体に湯気が上がっている中にビールを飲むのはうまいものだ。

わたしの坐っているうしろには、紙を細く切って、それに、全国から集まった材料や、名産の名前が書いてある。新しく送られた品は、すぐ、この細い紙に書き入れられて張られる。だから、それを見ると、いま、どんなものがあるか、なにが品切れかということが、すぐに分るようにしてある。

詩人は、それを念入りに読んでいる。

詩をよむつもりでよんでいるのかもしれない。この男の詩はしらないが、詩人だって、食事はするだろう。いや、非常によく分るはずだ。鳥や、花の心が詩人には分るはずだから……。