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ガラマサどん

ガラマサどん

佐々木 邦

「キング」1930(昭和5)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 99,079 字 · 202 页

青空文庫

その後、私は新年宴会で社長の義太夫を拝聴した。香川君の言った通り、三味線が鳴り出すと共に皆かしこまった。語り物は寺子屋の段だった。それもサワリ丈けの座興でない。本式に源蔵の戻りからやる。

「すまじきものは宮仕え……」

と来た時、私は成程と思って涙を流した。秘書が帳面につけるとすれば、私の勤務成績は満点だったろう。

しかし社長は実際人気がある。義太夫ばかりでない。何をやっても、ガラマサどんが会社随一だ。ゴルフは重役連中丈けの娯楽で下積みの端倪すべきところでないが、社長が一番強いらしい。玉突きも天狗で、屋敷に玉突台を三つまで備えている。社長の将棋については、同僚の畑君が、

「ガラマサどんは神さまですよ」

と感歎した。

「何故ですか?」

と私は妙に社長に興味がある。

「初段です」

「それじゃ本当に強いんですね」

「いや、弱いんです。免状を買ったんです」

「成程」

「会社では工場長の鬼島さんが一番強いんですが、社長と差すと、いつも大汗です」

「それじゃ社長の方が強いんでしょう」

「いや、うまく負けてやるのに骨が折れるんです」

「成程」

「僕でもうっかり差していると勝ちますよ」