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ガラマサどん

ガラマサどん

佐々木 邦

「キング」1930(昭和5)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 99,079 字 · 202 页

青空文庫

社長自叙伝係

中島さんは相変らず機嫌よく口をきいてくれる。宣伝部長からは来月の仕事について相談があった。出張の内命さえ下った。首にするものなら、そんな筈はありようがない。して見ると、あれは中島さんが一存で注意をしてくれたのだろうと私は少し安心した。二日三日と何事もない。好い塩梅だと思っているところへ、

「熊野さん、社長さんが御用でございます」

と言って、給仕が呼びに来た。

「へえッ」

と私は忽ち飛び上った。

社長自叙伝係

給仕に従って社長室へ向った私は胸が早鐘をついた。

「何の用だろう?」

と独り言のように、それとなく給仕に訊いて見るほど不見識を極めた。

「存じません」

と答えて、給仕は駈け出す拍子に、折から廊下の曲り角だったので、誰かに突き当った。それが畑君だったことゝ、畑君が私に、

「やあ」

と声をかけたことゝ、私が何とも応じなかったことを未だにハッキリ思い出す。尚お足許にゴムバンドの新しいのが一つ落ちていたことも覚えている。人間、九死一生の場合には迚も頭が明晰になるものだと聞いていたが、確かに然うだった。

私は先ず秘書の松本さんのところへ出頭して、

「何か御用でございますか?」