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ガラマサどん

ガラマサどん

佐々木 邦

「キング」1930(昭和5)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 99,079 字 · 202 页

青空文庫

と恐る/\伺いを立てた。松本さんは頷いた丈けで、

「此方へ」

と私を社長室へ案内した。絨毯と窓掛の色彩が強く目を射って、素晴らしく立派な部屋だった。

「やあ」

と社長が書机から中央の卓子へ進んだ。

「…………」

「お掛けなさい」

「はあ」

と私は二度目のお辞儀をして腰を下したが、宣伝部の椅子とは勝手が違う。身体が深くめり込んだのに、尠からず慌てた。

「熊野君はいつ入ったんでしたかな?」

「一昨年の春からお世話になっています」

「ナカ/\御勉強のようですね」

「何う致しまして」

「えゝと、御足労を願ったのは他のことでもないが……」

と社長は言いかけて、

「松本君」

と呼んだ。

「はあ」

と松本さんは直ぐに秘書室から現れた。

「あの雑誌を取ってくれ給え」

と社長が命じた。松本さんは書机の上から取って来て渡した。私はそれを「新大衆」の最近号と認めた刹那、もう運命が定ったように思った。私の書いた探偵物が載っている。

「他のことでもないが……松本君、一寸」

「はあ」

「君もこゝにいてくれ給え」

「はあ」

「熊野君、他のことでもないが、君は小説を書くね?」

「はあ。その雑誌の記者と知合で、頼まれたものですから、つい」