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ガラマサどん

ガラマサどん

佐々木 邦

「キング」1930(昭和5)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 99,079 字 · 202 页

青空文庫

「耳が痛いです」

「年代に疑問があっても、シェキスピールの精神キリストの精神は分っている。それを書いたものがシェキスピール伝キリスト伝じゃあるまいか?」

「御道理でございます」

「君は我輩の経歴を書こうと思っちゃいけない」

「はあ」

「日常我輩に接触していて、見聞したところを書けば宜しい」

と社長は漸く要領に達した。

「すると自叙伝よりは寧ろ言行録でございますな?」

「いや、生きた言行を材料にして自叙伝を書くのさ」

「成程」

「例えば、今日は社長がこんなことを言ったとか、あんなことをしたとか、と覚えて置いて、成るべくそのまゝに書いて貰いたいのだが、下手をやると、速記録みたいなものになる」

「はあ」

「速記録なら速記者を頼む方が早い。しかしそこを巧く塩梅して、ガラマサどんの精神を如実に現すのが君の腕さ」

「成……」

とまで言って、私は後を呑み込んだ。危い。

「社長」

「何だね?」

「ガラマサどんてのは何のことでございますか?」

「君は知らないのか?」

「はあ、一向」

と私は松本さんの覆轍に鑑みたのだった。

「我輩のことさ」

「はゝあ」

「君は未だ日が浅いから知らないのだろうが、我輩の綽名だそうだ」