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ガラマサどん
ガラマサどん
佐々木 邦
「キング」1930(昭和5)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 99,079 字 · 202 页
「さあ。何うぞ」
「もう直ぐだ。これで結構」
と臼井さんはいっかな応じない。尤も後二停留場だ。
「それでは失敬します」
と私はそのまゝ納まった。
「何うだね? 社長秘書は」
と臼井さんは釣下って私に話かけた。若し吊革がなかったら、正に私を撲ろうとする構えだ。しかし多大の善意を持っている。
「真のお手伝いです」
「本務よりも忙しいだろう?」
「掛け持ちですから、彼方此方と天手古舞いです」
「お察し申す」
「夜まで引っ張られるんですから、敵いません」
「淀橋の方へ伺うのかね?」
「はあ」
「それじゃ大変だ。義太夫を聴かされやしないかい?」
「はあ。それで弱るんです」
「ガラマサどんのデン/\と来たら、皆遁げ出すんだからね」
「欠伸をすると、御機嫌が悪いです」
「当り前さ。宴会の時は松本君が手帳につけている」
「宴会の時は大勢ですけれど、家では二人差向いですから、些っとも油断がなりません」
と私は訴えた。
「まあ/\、精出して拝聴することだよ」
「はあ」
「相手がガラマサどんだ。悪いようには決してしない」
「はあ」
「君は義太夫が嫌いかい?」
「然うでもないんですけれど、妙に草臥れますよ、大将のは」