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ガラマサどん
ガラマサどん
佐々木 邦
「キング」1930(昭和5)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 99,079 字 · 202 页
僕を叱って置いて、妻を褒めたり子供を褒めたりする。去年の今頃だったよ。僕がイヨ/\決心して辞表を突きつけたら大将、晩に家へやって来た。近所を通ったから序だと言ったが、態に定っている。妻を初め四人の子供を順々に褒めるんだ。一番末のは生れたばかりだぜ。余っ程馬鹿な奴だと思ったよ」
「君は褒めなかったかい?」
「褒めたくても喧嘩をしたばかりだ。仕方なしに死んだ親父や祖父を褒めた。妻は何ういう意味だか分らない」
「成程」
「僕は努めて大きな顔をしていたが、家中のものを褒められゝば厭な心持はしない」
「御機嫌を直したのかい?」
「うむ。仕舞いに笑っちゃった」
「それで辞表撤回か?」
「然うさ。笑っちゃったから仕方がない。翌朝ノコ/\出掛けて行って、『社長、あれを返して戴きます』とやった。ところが大将は人が悪いよ。『何か忘れものをしたのかい?』と空とぼけている。『辞表です』と頭を掻いたら、『あれは君、感ずるところがあって出したんだろう?』と来た。『はあ。しかし又感ずるところがあって、返して戴きます』『会社員は詩人と違う。然う敏感じゃ勤まらない』と大将、まるで居直り強盗さ。前の晩にあやまりに来た時と悉皆態度が変っている」