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キャラコさん
キャラコさん
久生 十蘭
03 蘆と木笛
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,236 字 · 43 页
キャラコさんは、自分の頬にクワッと血がのぼってくるのがわかった。
「茜さん、あなた……」
茜さんは、空うそぶいて、せせら笑うように、いった。
「盲目の兄! なんて、ずいぶん、浪漫的じゃないこと?」
とりつくしまもなかった。
六
キャラコさんは、これを機会に、秋作氏のすすめにしたがって、すこしの間ほうぼうを歩いて見ることにきめた。
箱根町の小さな旅館へ引き移って、旅行の支度をしようと思って町へ買物に出ると、町かどの電柱に、脇坂部隊の戦傷勇士佐伯軍曹が、本町有志の熱心な懇請によって、今日午後一時から処女会の講堂で実戦談を行なわれることになったというビラがはりだしてあった。
蘆の間で、ほのぼのと木笛を吹いていたわびしそうな姿が眼にうかぶ。あの佐伯氏がどんな切実な働きをしたのか聴いてみたくなった。
会場へ行くと、入口に大きな国旗をつるし、
南京光華門突入決死隊の一人、佐伯軍曹軍事講演会々場
という大きな紙の立看板がたてかけられてあった。
講堂にはもう大勢の聴衆がつめかけ、演壇の両側には町の役員らしい人たちがズラリとい並んでいる、前列のはしに、佐伯氏が、すこしうつ向き加減になって、茜さんと並んで掛けていた。