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ジロリのおんな

ジロリの女

坂口 安吾

前半「文藝春秋 第二六巻第四号」1948(昭和23)年4月1日、後半「別冊文藝春秋 第六輯」1948(昭和23)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 51,597 字 · 102 页

青空文庫

私は思わずヒヤリとした。まったく私は心の凍る思いで、にわかに放心したほどである。

こんな時にどんな返事をしてよいのやら、まともな返事はバカみたいだし、はぐらかしてもバカみたいだし、私はまったくこうなると、幼稚園の生徒みたいで、

「だって、私は、惚れたハレタ、そのことしかほかに一生まともなことを知らないような奴ですもの、ようやくホットしたようなものですよ。人間万事、そうこなくっちゃア、失礼ながら、ほかのことではテンデ無策無能ですけど、その方面の御心痛については、いつなりと犬馬の労を致しますとも。これが私どもヤクザの仁義というもので、そこまでクダケテ下さらなくちゃア、人間らしくつきあっている気が致しません。左様然らばは、願い下げです」

美代子が戻らないものだから、電話で話し合って、大浦博士がこちらへ訪ねてくれることになっている。それで衣子の流し目、あふれたつ色ッポサも一瞬の幻、あとは又、とりつく島もないジロリ婦人に戻ったが、私はそれで満足であった。

私は然し、大浦博士なる人物は、予想以上の強敵、怪物であることを痛感した。事情をきゝ終り、衣子を慰めて、私と共に病院を辞した博士は、私を酒席に誘った。