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スモーリヌイにひるがえるあかはた
スモーリヌイに翻る赤旗
宮本 百合子
「大阪毎日新聞」1931(昭和6)年1月5日~21日号(15日号、19日号を除く)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,354 字 · 51 页
ソヴェト市民が、その中へパンでも修繕にやる靴でも入れて歩いているところの茶色布張の小鞄一つが彼女の荷物だ。帽子をぬいだら金髪が三等車の隅の明りで見なれぬ美しさにかがやいた。
その女は旅行なれた風で、暫くするとその小鞄を膝の上で開け、地味な室内着を出して、坐ったまま上から羽織った。脚を揃えて坐席の上へあげ、静かに板の上へ横になった。
ソヴェトの三等夜行列車では、一組一ルーブル前後で敷布団、毛布、枕が借りられるのだ。しかし、若い女は借りない。二人の日本女は革紐を解いて毛布と布団をとり出した。色の黒い方の日本女は毛布と書類入鞄とを先へ投げあげといてから、傍の柱にうちつけてある鉄の足がかりを伝わって上の段へあがってしまった。
下の坐席でもう一人の日本女が鞄を足元へ置こうとしたら、綺麗な髪を蔭においてふしながらそれを見ていた若い女が、
――枕元へおいた方がいいでしょう。
と注意した。
――私どもきっとぐっすり眠っちゃうから、明日の朝まで荷物見るものがないでしょう? だからね。
そういって笑った。
鞄を頭の奥へ立て、布団を体にまきつけ、やっと二人目の日本女も横になった。