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スモーリヌイにひるがえるあかはた
スモーリヌイに翻る赤旗
宮本 百合子
「大阪毎日新聞」1931(昭和6)年1月5日~21日号(15日号、19日号を除く)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,354 字 · 51 页
日本女は、室の隅におかれた大きな旅行籠の前へひざまずき、ともかく茶を飲むべく、四角な茶カン、二本のアルミニュームの匙、砂糖を出して、古風な更紗張テーブルへおいた。
アメリカからエジソンがソヴェト見学にやって来たとする。ゴーリキーがソレントから故郷へ客に来たとする。彼等の荷物にもちろんこんなソヴェト市民の旅行籠なんぞないにきまっている。
時間さえあったらエジソンは「学者の家」を訪問することをこばみはしない。そして、流暢なアメリカ語をしゃべる通弁から、ここが革命までは何という貴族の邸宅であったか、現在は年に何千人の学者に便宜を与えているか、ソヴェト・ロシア文化施設の一端をききとるだろう。が、エジソン自身ここへは泊らぬ。彼の有名な食糧鮭の切身をはかるハカリがないからだけではない。学者でも、エジソンみたいなのは泊らないのだ。
ゴーリキーにしろ、意味なく帝政時代に室内監禁をくったのではない。ウラジーミル大公の食堂に今日一皿二十カペイキのサラダがトマトと胡瓜の色鮮やかに並び、シベリアの奥で苔の採集を仕事としている背中の丸い白い髯の小学者が妻と木彫のテーブルについているのを眺めることは絶対に不愉快でありえない、しかし、ゴーリキー自身のためには別なところにソヴェトが室を与えるだろう。