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ズラかったしんきち

ズラかった信吉

宮本 百合子

「改造」1931(昭和6)年7~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 54,656 字 · 110 页

青空文庫

その金をどうしてとるかと云えば働いてとる。社会を運転して行くために必要な労働なら、仕事に上下はないと李が云ったのを思い出し、一層わけが分らなくなった。

信吉が煉瓦砕きしてとってる金は、決して、折鞄抱えてあるいてる技師の月給と同じじゃない。労働者の権利が平等な筈のソヴェトで、何故賃銀の違いが在るんだろうか。

二百三十万近い人間のいるモスクワで、信吉がこんなことをきける者が五人いる。第一が李だ。それから劉と女房のロシア女アンナ。次がその劉の室へカーテンで仕切りをこさえて一緒に住んでる若い靴職のミチキンと、女房のアグーシャだ。

アグーシャは、劉、アンナと同じ絹織工場の型つけ職工だが、区の代議員ていうのをやっている。女でも演説が出来るんだ。

信吉が訊けば、きっと話してくれるんだろうが、不自由なもんだなあ、言葉がダメだ。

李なら、いいんだが、この頃、滅多に会えなくなっちゃった。どっかへ行って、まるで信吉の分んない仕事を忙がしくやってるんだ。――

三

或る夕方のことだ。

ぶるッと身震いして、信吉は目を覚した。いつの間に眠ったのか、靠れていた窓の外で庭がすっかり暗くなってる。