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ズラかったしんきち

ズラかった信吉

宮本 百合子

「改造」1931(昭和6)年7~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 54,656 字 · 110 页

青空文庫

ジッと、潮やけみたいにやけた鼻柱と碧っぽい落付いた眼を見あげながら、信吉は、

「お前、何てんだ?」

と、きいた。

「俺?――ドミトロフだ。……わかったか? ドーミートーローフ。鍛冶部だ。二十年働いてる。お前が知り合いになった男が、『飛び野郎』じゃねえことだけは確かだよ」

五ヵ年計画で、あっちこっちへ工場が建ち、特に熟練工はソヴェト同盟じゃどこでもひっぱり足りない。

そこで、一部の労働者が、一つの地方から一つの地方へ、三ルーブリでも賃銀の高い方へ「飛んで」行く。職業組合はそのために予定が狂って、ひどく迷惑してるんだ。

三

鉄片の先のトンがった方を電気鑢へかまして、モーターを入れると、ツイーッ!

忽ち深い螺旋がついちまう。

ホラ来た。もう片方! ツイーッ!

軽い、規則正しいツイーッ! ツイーッ! という響と鉄が強いマサツで放つ熱っぽい活溌な匂いとがいくつも並んだ台を囲んで仕事場じゅうに満ちてる。

信吉は、コンクリの床から鉄片をとりあげちゃ鑢にかけ、調子よくやっていた。

「鋤」で働くようになってっから、信吉は満足だ。

ソヴェトの労働者といったって、道ばたで煉瓦砕きをやってる連中とここの連中とじゃ、違う。