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バルザックにたいするひょうか
バルザックに対する評価
宮本 百合子
「文学古典の再認識」芸術遺産研究会編、現代文化社、1935(昭和10)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,904 字 · 62 页
の構想を得て数年後であったバルザックが、小説「ベアトリス」の中に二年前ゴーチェが或る二人の女優について書いた記事からの文章をそっくり真似て借りているなどという愛すべき事実さえもあるらしい。華美でエキゾチックで、ロマンチシズムの真骨頂のような作家的なゴーチェの文章を、バルザックが単純に上手いと感歎したというところにも、まざまざとバルザックが美の内容について錯雑した感受性をもっていたことが覗われるのである。
十九世紀という大きな世紀にふさわしい大きい素質をもって生れたオノレ・ド・バルザックの全生活、全労作を通じて相剋した現実に対する認識の積極面と消極面との激しい縺れ合いの姿こそ、実に我々に多くのことを教える。
人間の美徳も悪徳も社会的関係によるものであることを理解したのは、十九世紀の歴史的な勝利であった。更に、その現実社会に、極めて現実的に揉まれ、「観察する芸術家には事物が一番見よいに違いない場所」即ち社会の「下から、群集に混って困苦と苦闘を経ながら飽くことのない天才の資質とをもって其を眺めた」バルザックが、複雑多岐な形態で各人に作用を及ぼしている社会的モメントをつきつめれば、それは二つのもの、色と慾とであることを観察し、更にこの二つのものにあって窮極の社会諸現象のネジは、外ならぬ金銭であることを結論したの