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バルザックにたいするひょうか

バルザックに対する評価

宮本 百合子

「文学古典の再認識」芸術遺産研究会編、現代文化社、1935(昭和10)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,904 字 · 62 页

青空文庫

偉大な作家の生涯の記録とその作品とによって今日までのこされている社会的又芸術的な具体的内容は、常に我々にとって尽きぬ興味の源泉であるが、中でも卓越した少数の世界的作家の制作的生涯というものは、後代、文学運動の上に何かの意味で動揺・新たな方向への模索が生じた時期に、必ず改めて究明・再評価の対象として広汎な読者大衆の手にとりあげられるものであると思う。

トルストイの作品とその生涯との社会的意味は、最近の過去十六七年間に彼の同時代人には見抜くことが不可能であったような生々とした歴史的・階級的特徴を明らかにして、世界文学の発展のために摂取せられたよろこばしい事実を、私共は目撃しているのである。

一九三三年から三四年にかけて、日本ではバルザックの作品が急激に流布した。全集刊行が着手され、ゲーテ協会に対するバルザック協会が組織され、少し誇張した形容を許されるならば、文学について語るほどの者で一度もバルザックの名を口にしない者はないという現象を呈したのである。

大体、過去においてバルザックの作品は寧ろ等閑にふせられすぎていた傾きがあった。日本の文学愛好家の大多数は、モウパッサンの作品より尠くしかバルザックを読んでいないという実状にあったと思う。