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フランセスのかお

フランセスの顔

有島 武郎

「新家庭 第一巻第一号」玄文社、1916(大正5)年3月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,859 字 · 24 页

青空文庫

此処ではまた酒のような芳醇な香が私を襲った。シャツ一枚になって二の腕までまくり上げた兄らの間には大きな林檎圧搾機が置かれて、銀色の竜頭からは夏を煎じつめたようなサイダーの原汁がきらきらと日に輝きながら真黒に煤けた木槽にしたたっていた。その側に風に吹き落とされた未熟の林檎が累々と積み重ねられていた。兄らは私を見つけると一度に声を上げた。そして蜜蜂に体のめぐりをわんわん飛び廻らせながら一人一人やってきて大きな手で私の手を堅く握ってくれた。その手はどれも勤労のために火のように熱していた。私は少し落ち着いてからファニーの方を見た。彼女は上気した頬を真赤にさせて、スカーツから下はむきだしになった両足をつつましく揃えて立っていた。あの眼はなんという眼だ。この何もかにも明らさまな夏の光の下で何を訝り何を驚いているのだ。

*       *       *

ある朝両親はいつものとおり古ぼけた割幌の軽車を重い耕馬に牽かせて、その朝カロラインが集めて廻った鶏卵を丹念に木箱に詰めたのを膝掛けの下に置いて、がらがらと轍の音をたてながら村の方に出かけて行った。