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ボニンとうものがたり
ボニン島物語
久生 十蘭
「文藝春秋」1954(昭和29)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,772 字 · 41 页
北郡の洞内村に腹黒い父親があった。ある日、隣家に行っていうことには、うちの伜も間もなく死ぬが、どうせ死ぬものだから、無駄にはしたくない。息のあるうちに殺したく思うが、伜だと思うと、さすがにそうもいたしかねる。おぬしが打殺してくれれば、礼に肉を半分やるがと、誠しやかにもちかけた。
隣家の男は肉が欲しいところだったので、諒承して、鉈のひと打ちでその子を殺した。父親は傍に立って見ていたが、おのれ、おれの伜をどうすると叫ぶなり、杵をふるって強たかに男の頭を打った。父親は、計画にかけて一時に二人の肉を得たので大いに恐悦し、近所へ隣家の男がうちの伜を殺したので仇を討ったなどと触れまわり、料理して、塩に漬け、それで一と月ばかり凌いだ。近所では事情を知っていたが、みな飢え疲れ、親子兄弟でも、たがいに打殺して食う時節なので、咎めるものもなかったということである。
駒三郎の大祖父は、勘定所の頭取をつとめていた。十一月のはじめ、盛岡、寺小路東禅寺と報恩寺に救い小屋を建てて窮民の収容にかかったが、かねがね上納金の取立てをきびしくしていたので、問屋筋の受けが悪く、救い米に宛てるはずのものを出してくれない。