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ボニンとうものがたり

ボニン島物語

久生 十蘭

「文藝春秋」1954(昭和29)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,772 字 · 41 页

青空文庫

深志と駒三郎は心の奥に邪慳な企図をひそめている。その気になれば、この二人は寸刻のうちに命を失うのだが、なにも知らずに勇んで歩いていると思うと、いじらしくてならない。

いうにいえぬ想いに胸をしめつけられ、駒三郎は、われとなく、前を行く二人に声をかけた。

「清兵衛さん、庄吉さん」

二人は歩みをとめてこちらへ振返ると、

「はい」と答えるなり駆け寄ってきて、神妙なようすで道の上に膝をついた。

「ご用でございますか」

国元へ届ける漂民に、差送りの役人がつくのは古くからの慣例だが、実誼な老人たちは、お上に無用の費いと煩いをかけているのだと思いこみ、すこしでも手数をはぶこうとさまざまに心を砕いているふうである。宿々の泊りでは、できるだけ少なく食い、小さくなって眠り、呼べば、かならずひと声で飛んできて、まめまめしい挨拶をする。

「先の見えた旅だ。そう急ぐにもあたらない。海の見えるところでひと休みしようじゃないか」

清兵衛と庄吉は、慇懃にうなずくと、枯草の折畳まった場所をえらんで、駒三郎の座をつくった。深志が追いついてきて、駒三郎の傍に坐った。なにかいいたいことがあるらしく、海を見ながら煙草の煙を吹いていたが、二人のほうへ振返って「明後日の夕方には、故郷の土を踏める。