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ボロやのしゅんじゅう

ボロ家の春秋

梅崎 春生

梅崎春生『ボロ家の春秋』。同一底本的分册已合并为一书。收入:ボロ家の春秋、Sの背中、黄色い日日、記憶、蜆、庭の眺め、凡人凡語。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,411 字 · 263 页

青空文庫

そろそろ酔っている証拠です。

「背中ってやつは、どうも厭だよ。ほんとに意味がない」

と蟹江は遠過しに背中に話題を持ってゆきました。

「なぜだい?」

「なぜというとだね――」蟹江はちょっと考えて「背中ってものは、人間の身体のなかで、一番広い面積を占めているだろう。人間の表面積の四分の一はあるだろうね」

「そう言えばそうだね。地球におけるシベリヤみたいだね」

「それだのに、だ」と蟹江はすこし勢い込みました。「背中というものは、ほとんど人間の役に立たない。僕たちが背中を使用するのは、椅子によりかかる時と、寝る時位なものだ。それも、椅子なんかに腰かけないで、坐れば済むことだし、寝る時も、横向きに寝れば、背中は使わずに済む。そいじゃ背中というのは、何のためにあるんだ?」

「しかしだね」と猿沢は年長者らしい落着きを見せて言いました。「背中がないと、人間は困りはしないかな。胃や肝臓や肋骨が、うしろから丸見えになったりして」

「ほんとに意味ないよ、背中というやつは」と蟹江は横眼を使って、猿沢の様子をじろりと窺いました。「たとえばさ、腹にはお臍というものがあって、しめくくりがあるだろう。