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ボロやのしゅんじゅう

ボロ家の春秋

梅崎 春生

梅崎春生『ボロ家の春秋』。同一底本的分册已合并为一书。收入:ボロ家の春秋、Sの背中、黄色い日日、記憶、蜆、庭の眺め、凡人凡語。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,411 字 · 263 页

青空文庫

ボロ家の春秋

野呂旅人という名の男がいます。そいつはどこにいるか。目下僕の家に居住している。つまり僕と同居しているというわけです。しかしこんな場合、同居という呼び方が正しいかどうか、僕にはよく判らない。貴方も御存知のように、僕は世間知らずの一介の貧乏画家だし、言葉の使用法にあまり敏感なたちじゃありません。でも僕の感じからすれば、同居というのは、同じ権利をもって一家に住みあうこと、一方が他方に従属することなしに住み合うこと、(もし従属すればそれは居候とか間借人などと呼ばれるべきでしょう)そんなことじゃないかと思うんですが、そこらの関係が僕等の間ではたいへん複雑になっているのです。第一この家は一体誰の所有物なのか、僕のものか、野呂のものか、僕等以外の第三者のものなのか、それが全然ハッキリしていないのです。まことに困った話です。

野呂旅人という男は、歳はたしか三十一。背丈はせいぜい五尺どまり。身体も痩せていて、体重も十貫か十一貫というところでしょう。しかしこの男はもっともっと肥る素質はあると思います。なんとなくそんな感じがします。それなのに一向肥らないのは、栄養を充分に摂っていないせいだと、僕はにらんでいます。