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ボロやのしゅんじゅう
ボロ家の春秋
梅崎 春生
梅崎春生『ボロ家の春秋』。同一底本的分册已合并为一书。收入:ボロ家の春秋、Sの背中、黄色い日日、記憶、蜆、庭の眺め、凡人凡語。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,411 字 · 263 页
たかが引っかきでも、とにかく人に傷を負わせたのですから、フクさんも放っては置けません。相手の大久保は詮索好きと同時に、かなりのウルサ型なので、とうとう赤木医院に相談に行ったのです。赤木医院を選んだのは、医師にもその気があるから親身になって呉れるだろうということ、それに患者がすくなくて待合室もがらがらだから、噂が立ちにくいということ、そんな理由からです。すると赤木医師は言下に答えました。
「わしは専門医じゃないから判らん。M病院に行きなさい。M病院に!」
あとでフクさんはぼくにこぼしました。
「いくら何でもM病院じゃねえ。まるでほんとの気違いみたいじゃないの。見っともなくて、人にも言えないわ」
M病院入りがなぜ見っともないのか。病気なら仕方がないじゃないか。通念によりかかってばかりいるのは、ばかげた話だと思うのですが、ぼくは別段口には出さなかった。身を乗り出すな、という信条からです。うっかり口を出すと、あの変人画描きはM病院をひいきにしている。すこし怪しいぞ、ということになりかねないですからねえ。噂を立てられてもかまわないけど、ひっそりと人眼に立たず生きて行く方が、ぼくの性分に合っている。