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マダムさだやっこ
マダム貞奴
長谷川 時雨
「婦人画報」1920(大正9)年2~4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,999 字 · 53 页
そうした円満な家庭にも、吹きすさぶ荒い世風は用捨もなく吹込んで、十二人目にお貞と呼ぶ美しい娘が生れたころは、芝神明のほとりに居を移して、書籍、薬、質屋などを営んでいた。しかも夫婦は贅沢を贅沢としらずに過して来た人たちであったので、娘たちを育てるにもかなり華美な生活をつづけていた。次第々々に家産が傾くと知りつつもそれを喰止めるだけの力がなかった。終に窮乏がせまって来て十二人目の娘を手離すようになった。そしてお貞という娘が、他家で育てられるようになったのは彼女の七歳のときからで、養家は芳町の浜田屋という芸妓屋であった。
浜田屋の亀吉は強情と一国と、侠で通った女であった。豪奢の名に彼女は気負っていた。その女を養母とした七歳のお貞は、子供に似合わぬピンとした気性だったので、一寸のくるいもないように、養母と娘の心はぴったりと合ってしまった。その点はお貞の貞奴が、生の親よりもよく養母の気性と共通の点があったといえる。
とはいえ、そうした侠妓に養われ、天賦の素質を磨いたとはいえ、貞奴の持つ美質は、みんな善き父母の授けたものである。優雅、貞淑――そういう社会に育ったには似合わぬ無邪気さ、それは大家の箱入り娘と、好人物の父との賜物である。