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マダムさだやっこ
マダム貞奴
長谷川 時雨
「婦人画報」1920(大正9)年2~4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,999 字 · 53 页
家には利者の亀吉という養母が睨んでいる。そして何よりも――眠れる獅子王の傍に咲く牡丹花のような容顔、春風になぶられてうごく雄獅子の髭に戯むれ遊ぶ、翩翻たる胡蝶のような風姿、彼女たちの世界の、最大な誇りをもって、昂然と嬌坊第一にいた。
彼女も、そうした社会の女人ゆえ、早熟だった。彼女は遊びとしては、若手の人気ある俳優たちと交際っていた。そして彼女がもっとも好んだものは弄花――四季の花合せの争いであった。金びらのきれるのと、亀吉仕込みの鉄火とが、姿に似合ぬしたたかものと、姐さん株にまで舌を巻かした。
奴の芸妓としての盛時は十七、八歳から廿一歳ごろまでであろう。
奴は芸妓時代から変りものであった。その時分ハイカラという新熟語はなかったが、それに当てはめられる、生粋なハイカラであった。廿二、三年ごろには馬に乗り、玉突きをしたりしていた。髪もありあまるほどの濃い沢山なのを、洗髪の捻りっぱなしの束髪にして、白い小さな、四角な肩掛けを三角にかけていた。大磯の海水浴の漸く盛りになった最中、奴の海水着の姿はいつでも其処に見られ、彼女の有名な水練は、この海でおぼえたのであった。