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マダムさだやっこ

マダム貞奴

長谷川 時雨

「婦人画報」1920(大正9)年2~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,999 字 · 53 页

青空文庫

交ぜてするという事が、世間の好奇心を誘って評判されていた。わたしはその頃ぽつぽつと新聞紙や、『歌舞伎新報』などをそっと読みふけっていたので、耳から聞く噂ばかりでなく、目からもそれらの知識がすこしはあった。それに父は自由党員に知己も多かったので、種々話をしているときもあった。川上の他に、藤沢浅二郎は新聞記者だとか、福井は『東西新聞』にいたがとか、壮士芝居の人物を月旦していることもあった。見物をたのまれて母なども行ったらしかった。とはいえ、興味をもっても直に忘れがちな子供のおりのことで、川上音二郎が薩摩ガスリの着物に棒縞の小倉袴で、赤い陣羽織を着て日の丸の扇を持ち、白鉢巻をして、オッペケ節を唄わなかったならば、さほど分明と覚えていなかったかも知れない。

しかし子供ごころに、オッペケペッポの川上はさほど傑い人だと思っていなかった。それよりも芳町の奴の方が遥かに――芸妓でも抱え車のある――傑い女だと思っていた。なんで、川上のおかみさんになぞなるのだろうと、漠然とそんなふうに思ったこともあった。その後、川上座の建築が三崎町へ出来るまで、奴の名には遠ざかっていた。