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マダムさだやっこ
マダム貞奴
長谷川 時雨
「婦人画報」1920(大正9)年2~4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,999 字 · 53 页
湧上った笑い声に気がついて見ると、あにはからんやの有様、舞台監督は狼狽て緞帳をおろしてしまったが――
赤面と心痛――開場式に頭が飛ぶとは――彼女は人知れずそれを心に病んだ。それが箴をなしてというのではないが、もとより無理算段でやった仕事だけに、たった一万円のために川上座は高利貸の手に奪られなければならなかった。川上は同志を集めて歌舞伎座で手興行をした。わが持座を奪われぬために、他座で開演した心事に同情のあった結果は八千円の利益を見、それだけは償却したが、残る四千円のために彼らは苦しみぬいた。
そのころの住居が大森にある洋館の小屋であった。金貸に苦しめられた川上が憤然として代議士の候補に立ったのは、高利貸退治と新派劇の保護を標榜したのであったが、東京市の有力な新聞紙――たしか『万朝報』であった――の大反対にあって非なる形勢となってしまった。
それらが動機となって川上夫婦の短艇旅行は思立たれた。厭世観と復讐の念、そうした夫の心裏を読みつくして、死なば共にとの意気を示し、死ぬ覚悟で新しい生活の領土を開拓し、生命の泉を見出そうではないかと、勧めはげましたのは奴であった。