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モスクワのつじばしゃ
モスクワの辻馬車
宮本 百合子
「読売新聞」1931(昭和6)年1月1日、4日、6~9日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,305 字 · 17 页
、1-7-82)ヤとストラスナーヤはつまりそんなに近いのだ)。御者は往来のくぼみ、今は一台もいないタクシー溜りへ馬車を引込み、その辺を見廻してたがやがてのろくさ御者台を降り、広場の方へ去った。若い交通巡査を先に立て、馬車のところへ戻って来た。
日本女は馬車からこごんで巡査に事情を説明した。御者はわきへ巡査の方へ背中を向けて立っている。もうまわりは人だかりだ。若い交通巡査は、黒い外套の胸をふくらませてしめた皮帯の前へ差した赤い指揮棒の頭をひねくりながらきき終ると、手を帽子へやりロシア風にそれを頭のうしろへずらした。
――……警察で話して下さい。
御者に向い、
――警察へ行け。僕はここでいそがしいんだ。
広場の交叉点へ戻って行ってしまった。
――何だい。
――言葉がわかんないんじゃないの?
群集がしゃべり出した。
――どうしたんだ? 彼女は何が必要なんだ?
日本女は、馬車へのっかったまま平らかな視線で自分のまわりへよって来た群集を眺めた。彼女は群集を知っている。パンの列に立ってる間に、電車でもみくしゃにされた間に日本女がその気ごころをいつか理解したモスクワの群集だ。