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モノグラム

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江戸川 乱歩

「新小説」春陽堂、1926(大正15)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,034 字 · 22 页

青空文庫

それに、見た所私よりも風体のととのった若い男と話すことは、悪い気持もしないものですから、まあひまつぶしといった鹽梅で、変てこな会話を続けて行きました。こういう工合にね。

「妙ですね、お話ししてる内に、私も何だかあなたを見たことがある様な気がして来ましたよ」これは私です。

「そうでしょう。やっぱりそうなんだ。しかも道で行違ったという様な、一寸顔を合せた位のとこじゃありませんよ、確に」

「そうかも知れませんね。あなたお国はどちらです」

「三重県です。最近始めてこちらへ出て来まして、今勤め口を探している様な訳です」

して見ると、彼もやっぱり一種の失業者なんですね。

「私は東京の者なんだが、で、御上京なすったのはいつ頃なんです」

「まだ一月ばかりしかたちません」

「その間にどっかでお逢いしたのかも知れませんね」

「いえ、そんな昨日今日のことじゃないのですよ。確に数年前から、あなたのもっとお若い時分から知ってますよ」

「そう、私もそんな気がする。三重県と。私は一体旅行嫌いで、若い時分から東京を放れたことは殆どないのですが、殊に三重県なんて上方だということを知っている位で、はっきり地理も弁えない始末ですから、お国で逢った筈はなし、あなたも東京は始めてだと云いましたね」