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ヤミろんご

ヤミ論語

坂口 安吾

「世界日報 第五五二号~第六九二号」1948(昭和23)年2月23日~7月12日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,308 字 · 36 页

青空文庫

文学者の自殺ということは、社会問題としては珍聞であるかも知れぬが、文学者仲間の話題としては、そうかい、太宰は死んだかい、おやおや、女と一緒かい、というだけのことだ。

人間の思想に、どうしても死ななければならぬなどという絶体絶命のものはありはせぬ。死ななければ、生きているだけのことである。同じことだ。文学者には、書いた作品が全部であり、その死は、もう作品を書かなくなったというだけのことである。

太宰は、その近作の中で明かに自殺しているが、それだから、現実に自殺をしなければならぬという性質のものでもない。

私は然し太宰が気の毒だと思うのは、彼が批評を気にしていたことである。性分だから、仕方がない。それだけ可哀そうである。

批評家などというものは、その魂において、無智俗悪な処世家にすぎないのである。むかし杉山平助という猪のようなバカ者がいて、人の心血をそそいでいる作品を、夜店のバナナ売りのように雑言をあびせ、いい気になっていたものだ。然しその他の批評家といえども、内実は、同じものである。

太宰はそんな批評に、一々正直に怒り苦しんでいた。もっとも、彼の文学の問題が、人間性のそういう面に定着していたせいでもある。