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ウィタ・セクスアリス
ヰタ・セクスアリス
「昴」1909(明治42)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 58,941 字 · 119 页
と云った。安斎の車は仲町へ曲った。
安斎は遺伝の痼疾を持っている。体が人並でない。こんな車の行く処へは行かれないのである。
僕は車夫に、「今の車に附いて行け」と云った。小菅に帰るには、仲町へ曲ってはだめであるが、とにかく霽波と別れさえすれば、跡はどうでもなると思ったのである。僕の車は猶予しながら、仲町の方へ梶棒を向けた。
この時霽波の車は一旦三橋を北へ渡ったのが、跡へ引き返してきた。霽波は車の上から大声にどなった。
「おい。逃げては行けない」
僕の車は霽波の車の跡に続いた。霽波は振り返り振り返りして、僕の車を監視している。
僕は再び脱走を試みようとはしなかった。僕が強いて争ったなら、霽波もまさか乱暴はしなかったのだろう。しかし極力僕を引張って行こうとしたには違ない。僕は上野の辻で、霽波と喧嘩をしたくはない。その上僕には負けじ魂がある。僕は霽波に馬鹿にせられるのが不愉快なのである。この負けじ魂は人をいかなる罪悪の深みへも落しかねない、頗る危険なものである。僕もこの負けじ魂の為めに、行きたくもない処へ行くことになったのである。それから僕を霽波に附いて行かせた今一つの factor のあるのを忘れてはならない。