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ウィタ・セクスアリス
ヰタ・セクスアリス
「昴」1909(明治42)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 58,941 字 · 119 页
神田で嫌な酒を五六杯飲ませられたので、咽が乾く。土瓶に手を当てて見ると、好い加減に冷えている。傍に湯呑のあったのに注いで見れば、濃い番茶である。僕は一息にぐっと飲んだ。
その時僕の後にしていた襖がすうと開いて、女が出て、行燈の傍に立った。芝居で見たおいらんのように、大きな髷を結って、大きな櫛笄を※(「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28)して、赤い処の沢山ある胴抜の裾を曳いている。目鼻立の好い白い顔が小さく見える。例の中年増が附いて来て座布団を直すと、そこへすわった。そして黙って笑顔をして僕を見ている。僕は黙って真面目な顔をして女を見ている。
中年増は僕の茶を飲んだ茶碗に目を附けた。
「あなたこの土瓶のをあがったのですか」
「うむ。飲んだ」
「まあ」
中年増は変な顔をして女を見ると、女が今度はあざやかに笑った。白い細かい歯が、行灯の明りできらめいた。中年増が僕に問うた。
「どんな味がしましたか」
「旨かった」
中年増と女とは二たび目を見合せた。女が二たびあざやかに笑った。歯が二たび光った。土瓶の中のはお茶ではなかったと見える。僕は何を飲んだのだか、今も知らない。