轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

ひとつのできごと

一つの出来事

宮本 百合子

「大観」1919(大正8)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,024 字 · 23 页

青空文庫

そして私は真剣になって、自分の仕事を考えるときと同様の歓びと謙譲な祈願に心を満たされながら、彼等の仕事を想うのである。

私は子供の名も親の名も知らない。けれどもそれでよい。私はただ、こうやって偶然廻り合わせた地上の一点で、彼もまた何か「よきもの」の所有者であって欲しいという希望と並び立った想像が私の心を厳粛にするのである。

よき人の産む仕事は、少量でも貴い、その一粒の貴さに対して人は謙譲でなければならない。朗らかに眼を見張る謙譲を持つべきではないのか。

自白すれば、私はときどき自分の仕事と彼の仕事たるべきこととを混同して感動したこともあるに違いない。また、彼等の悲劇的な連想と、私のうちにある芝居が、私の今の境遇を動機として絢爛(けんらん)たる戯曲を幻に描いたのかも知れない。旅に暮す者は、旅に逢う小鳥さえも忘れかねる場合がある。

漠然としてはいても、量り知れない深味で心にしみている郷愁や、その齎(もたら)すいろいろな恂情的気分を取りのけたとしても、私が彼のユダヤ人の一族に向けた好意は決して僅かなものではなかっただろう。

かようにして、私の心のうちには普通彼等が致されるような些の反感もなければ、侮蔑もなかった。