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ひとつのめばえ

一つの芽生

宮本 百合子

「新日本」1918(大正7)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,627 字 · 29 页

青空文庫

次の日、或るところで、或る尊敬し愛している先生にお目にかかったとき、弟の病気のこと、自分の厄年のことなどをお話しした。

そして、厄年などというものは、人々の生理的心理的の一転期を警告的に教えた、故人の符牒(ふちょう)に過ぎないものだと思ってい、またそれだけのことだと信じていたのに、今度の機会によって、それがどんなに心の底の方で、漠然宿命的な色を帯びた不安となって潜んでいるのを知ったかとお話ししながら、フト淋しい心持になった。

熱は、いろいろな方面から研究されながら、九度三四分から八度七八分の間を細かく縫って、一週間続いた。そして、益々チブスの疑いが増して来るとともに、私共の札幌行は、もちろん中止になった。

それを惜しがるには、あまり我々の心が病弟の上にのみ注がれていた。

若し彼がチブスだと定まれば、或る期間当然持続すべき高熱に比較的弱い心臓が堪え得るかということと、まだ根絶しない脚気が恐るべき影響を及ぼさないだろうかということが最も案じられることなのであった。

夕方事務所から帰って来ると、父は第一に病人の様子を訊ねる。

「どうだろう大丈夫だろうか?」